家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
そこは馬車の通りも多く開けているため、探すには苦労しそうな場所だった。
その周りをきょろきょろと眺める。指輪の現物を見たわけではないので、見た目での判断はあまり意味がない。レイモンドの香りが残っているかどうかで判別するしかなかった。

辺りを探し回り、リルは石畳の隙間に挟まっていた指輪とちぎれそうになっている革紐を見つけた。
革紐を咥え、きつく挟まってしまったそれを引っ張りだす。
かすかにレイモンドの香りを感じ取り、リルはホッとした。
指輪を咥えて歩き出したとき、手当てをしたレイモンドとオリバーがやって来た。

『ワン!』

『リル! すごいや、見つけてくれたんだね』

涙ぐむレイモンドが近づいてきて、リルは咥えていたそれを離した。

……と、次の瞬間、レイモンドが吹き飛ばされた。後ろにいたオリバーが、両こぶしを組んで、彼の頭めがけて叩きつけたのだ。
カラン、と道に転がった指輪を拾い上げ、はあはあと浅い息を吐く。

『はは……これは見つからなかったんだよ。失せもの探しのリルも、たまには失敗するもんな』

言い聞かせるように、オリバーがブツブツつぶやく。
レイモンドのピンチに、リルはとっさにオリバーの足に噛みついた。

「いてぇっ、何しやがるっ」

しかしリルは体の小さな犬だ。成人男性に足蹴にされれば、簡単に飛ばされてしまう。

「うわああっ」

そこに、間が悪くスピードを出した馬車が通りかかった。

リルの記憶はそこで途切れている。
ただレイモンドが心配だった。心の優しいあの子が、悲しむのを見ていたくなかった。

*  *  *
< 102 / 181 >

この作品をシェア

pagetop