家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
座り込んだロザリーを心配するようにみなが息をつめて彼女を見つめる。
ロザリーは深く長いため息をつくと、震える声でぼそりとつぶやいた。
「思い出しました。……リルはずっと、これが心残りだったんです」
「……リル?」
レイモンドが眉を寄せ、しゃがみこんでいるロザリーの肩を掴んで、真剣な表情で顔を覗き込んでくる。
「ロザリー、リルを知っているのか? 昔ここで飼っていた犬だ。ふわふわした毛のかわいい犬だったのに……俺のせいで、死んだんだ」
必死な表情に、レイモンドの後悔を見て取ったロザリーは首を振った。
「違います。レイモンドさんのせいじゃ……」
「レイモンドのせいじゃないわ。あれは、……事件だったんだもの。すべてオリバーさんが悪かったのよ」
畳みかけるように言うのはオードリーだ。
レイモンドはロザリーから手を離し、オードリーのほうを見つめる。
「あれは指輪を盗もうとしたオリバーさんが悪いの。あなたのせいじゃない」
「だが」
座り込んだまま二人を見つめていたロザリーの右脇に、突然ザックの手が差し入れられ、そのまま片手で持ち上げられた。
「ひゃっ」
「大丈夫か? 床は冷たい。椅子に座るといい」
もう片方の腕に抱かれたままのクリスも心配そうにのぞき込んでいる。
食堂の椅子に落ち着いて、ロザリーも息をついた。