家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
オードリーはそんなロザリーたちのことはあまり目に入っていないようだ。ただまっすぐにレイモンドを見つめて話し続けている。

「指輪って言ったから思い出してしまったのね? レイモンド、そんな昔のことを思い出して後悔する必要なんてないわ。……でも今回の指輪の件で私が怒っているのは、わざわざ隠していたものをクリスが勝手に持ち出したからよ」

母親の言葉に傷ついたクリスは、目に涙を浮かべてザックの腕を抜け出した。

「やっぱりクリス探してくる!」

「あ、待ってください。クリスさん」

飛び出していったクリスを追おうとしたロザリーを、レイモンドが止める。

「待て。行くなロザリー、探さなくていい!」

「でも。クリスさんが」

「いいから。店主命令だ。あれはもう、見つからなくてもいいものなんだよ。クリスだってしばらく探して見つからなければ戻って来るさ」

そっぽを向いて言うレイモンドに、ロザリーはいら立ちが沸き上がった。

レイモンドだって、昔あんなに必死になって指輪を求めたくせに。だからリルは指輪を探したかった。レイモンドに笑ってほしかったから。結果として死んでしまったけれど、レイモンドを恨む気持ちなんてない。そんな風に意固地になってほしかったわけじゃない。

ロザリーはクリスの心を守りたいだけだ。リルがレイモンドに対して思ったように。

「きけません! クリスさんが傷ついているじゃないですか。指輪を見つけることで彼女がホッとするなら、私は指輪を見つけます」

ロザリーはクリスを追って外へ駆け出した。

「おい! ロザリー」

ザックは慌て、ケネスに「こっちは頼む」と言い残し二人を追い駆ける。
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