家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
残されたケネスは、状況がわからずしばし思い悩み、頭をかく。
「……何が何だかよくわからんが、領主子息としてはいろいろ見過ごせないな。その過去の事件はどうなったんだ。そもそも、そのオリバーってのは誰だ?」
レイモンドとオードリーは顔を見合わせた。
「昔、ここで働いていた人です。義父(ちち)が母に贈った指輪は、代々この宿のおかみに継承されるものです。……金庫の鍵番号が書かれた、実質的にも宿の経営を握るものなんです」
「はぁ?」
「一番最初の宿主が、求婚相手に本気を伝えるためにしつらえたそうです。歴代のおかみは、それを大切に隠し持ちました。指輪だというのに、ペンダントにして服の中にしまっていたそうで。母もそれをもらっていました。俺の了承が取れ次第、結婚の返事をするつもりだったようです。……もう、十七年も前の話ですが」
「店主とお前の母さんが再婚するときの話か」
「はい。従業員のオリバーは、ずっとそれを狙っていたようです。指輪が母の手に渡った時から。宿にいれば義父の目が光っているけれど、俺と母になら隙があると思ったんではないでしょうか。そんなある日、母が指輪を忘れて出かけて、俺はそれを見つけて母を追い駆けた。途中転んで失くしてしまって、困っていたとき、彼が親切顔でリルを離して探させてくれた。リルは見つけてくれました。でも、そこでオリバーが豹変したんです。俺の頭を殴りつけたのち、リルを蹴って道路に投げ飛ばし、オリバーは指輪をもって逃げた。……リルは馬車に引かれて死にました。リルが死んだのは俺のせいです」