家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「レイモンド! あなただって被害者じゃない。あの時ひどい怪我をしたわ」
「怪我は当然の報いだ。結局、当時の領主様……ケネス様のおじい様が間に入ってくださり、憲兵隊を率いてオリバーを捕まえてくれました。あなたは小さかったから覚えていないのでしょう。実際、あの指輪は特殊な方法でしか番号を見ることはできない。その方法は主人にのみ受け継がれているのです。オリバーは指輪を奪ったものの番号を確認することはできなかったので、切り株亭の金庫の番号は人に知られることなく、義父と母も無事に結婚しました。……でも、リルは戻らない。俺はあの時に思い知った。命より大切なものなんてないんです。……探す必要なんてないんだよ、指輪なんて」
最後のほうはオードリーに向けていた。
けれどオードリーのほうはまだ諦めきれないようだ。
「でも、あの指輪は……」
オードリーの態度を見て、ケネスはよほど大切なものなのか、と質問をかえた。
「オルコット夫人が失くした指輪は、博士の遺品か何かですか?」
オードリーは静かに目を伏せる。
「……いいえ」
「オードリー!」
「いいの。……そろそろはっきりさせるべきだったのよ。失くした指輪は、結婚前にレイモンドがくれたものです。あなたは、いらないなら捨ててくれと言ったわね。私は……捨てられなかったのよ、ずっと」