家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「……それこそ今さらですわ。クリスが生まれたことを、あちらのご両親は喜んでくれました。夫が死んで、一番最初に言われたことは、どうかこのままここで暮らしてほしいと、自分たちから孫を奪わないでほしいということです。罪悪感もありました。……私は、打算で彼と結婚しました。であれば、最後までそれを受け入れる必要があると」

「指輪を思い出として抱えたままかい?」

「……ええ」

ドンと固い音がした。レイモンドが壁をたたいたのだ。

「……なんだよ、それ」

力の抜けたような情けない声に、オードリーは体をびくつかせる。

「クリスは私に、ずっとここにいればいいと言ったわ。ここにいるときのほうが楽しそうだからって。……あの子にはすべて分かっているのかと思ったら怖かった。だからつい、八つ当たりをしてしまったの」

オードリーが震えている。

「子供の目は侮れないね。……で、君たちは両思いだということでいいのかな?」

呆れたようなケネスの声に、返事をするものはいなかった。

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