家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


一方、クリスを追い駆けたロザリーとザックは、再び石畳のわずかな段差につまづいて転んだクリスをなだめていた。

「痛いですよね。あああん、泣かないでください」

「石畳は転びやすいんだな。道路にはもっといい素材を考えないとだめだな。フラットにするにはどうすりゃいいんだ?」

ザックが謎の検討を始めたので、ロザリーは失礼かなと思いつつも、彼の袖を引っ張った。

「それよりザック様、ハンカチかなんか持っていませんか。私のはもうびしょびしょです」

「うえっ、うえっ、うわあああん」

母親から責められた悲しさと物理的な痛みでたくさん泣いたクリスは、ロザリーにしがみついている。
ハンカチどころか、ロザリーの服もびしょぬれになりそうな勢いだ。

「泣くなよ、クリス」

「うえっ、ええええん」

ザックが抱きかかえようとしても、クリスはロザリーから離れない。
諦めたようにザックも地面に座り込んだので、ロザリーはぎょっとしてしまう。

「ザック様、汚れますよ。それに……」

子供が大声で泣いているのだから、それなりに目立つ。恥ずかしいと感じてもおかしくないはずだ。

「別に、汚れは洗えばいいだけだし、ロザリーだけでは小さいからクリスを人目から隠してやれないだろう」

人通りの多い道の中心に背中を向け、ザックは真剣な顔で泣きじゃくるクリスを見つめている。
彼の背中は、この小さな子供を守ろうとしてくれているのだと思うと胸が熱くなった。
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