家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
* *

(ここ……どこなんでしょう)

見たことがない景色が、ロザリーの目の前に広がっていた。
にぎやかな街だ。街全体が独特の匂いに包まれていて、まるで酔ってでもいるように街の人は機嫌良さそうに働いている。
ロザリーはその街の宿屋の入り口にいた。ちょこんと座って、宿屋に入る人をじっと見つめている。
お客は彼女を見つけると、柔らかく微笑んだり、頭を撫でたり、ぎょっと体を後ずさりさせる人もいる。

(どうして私、こんなところにいるのでしょう? それに……)

あまりに違和感があり、ロザリーはそれがなぜなのか考えた。ふと気づいたことは、いつもよりも視線が低いことだ。通りすがる人の足が目の高さだなんて、小さい子供のようではないか。
それに、こんな町中に令嬢であるロザリーがひとりでいることもおかしいのだ。

「……ワン」

つぶやいた言葉が、人のそれではないことに驚いて、ロザリーは目を見張る。

(え? え? どういうことですか?)

視線を足元にずらすと、見えるのは、獣のものと思われるベージュの毛並みの足だ。
前へ動かそうと思うと動く。上に持ち上げてみる。地面に何度か足踏みをする。
ロザリーの意思通りに動くそれは、彼女の体ということになる。

(えええええー! どうして? わ、私、犬になってますー!)

焦るロザリーのもとへ、手に野菜の入った籠を抱えた年配の女性がやって来る。
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