家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
クリスの背中を撫でながら、ごめんなさいと心でつぶやく。

(クリスさんが泣いてるのに。私なんだか今、ドキドキしてしまっています)

ザックの手がロザリーの頬をつつく。

「……ロザリー、顔が赤い。抱いているのが疲れたんじゃないか?」

「い、いえっ、大丈夫です。全然。それより、……クリスさんのほうが泣き疲れてきちゃったみたいです」

徐々に嗚咽がおさまり、しゃくりあげながらもクリスはロザリーから離れない。
ロザリーの髪の毛を指に巻き付けながら、肩に顎をのせて、はふと息を大きく吐き出した。

「……ロザリーちゃん、ふわふわ」

「広がっちゃって大変なんですけどね。この髪」

クリスがようやく話ができるまでに復活したので、ロザリーはホッとした。

「かわいいもん、好き。ふわふわ揺れてて、髪の毛も楽しそうなの。……ママにも、笑っていてほしいの。おうちが悲しいなら、ずっとここにいればいいのに」

「クリスさん」

「クリス。指輪を隠そうと思ってたの。この指輪があるから、ママはパパのこと、忘れないのかなって思って。ママが片付けしている間に、こっそり持ち出して……」

「それで失くしたちゃったんですか」

クリスは頷く。

「宿の花壇に埋めようって思って歩いてたの。でも宿が見えてきたあたりで、転んじゃって、失くしちゃった。ママに言ったらすごく怒られて、悲しくて……」

「そうですか。……頑張ったんですね。でも場所ははっきりしましたね。切り株亭近くを探せば、きっと見つかります!」

ロザリーは安心させるようにほほ笑みかけ、クリスを離した。
< 110 / 181 >

この作品をシェア

pagetop