家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

あのまま夫が生き続けていたら、いつかは愛することができただろうか。
そう考えれば考えるほど、オードリーは捨てられない指輪のことが気になった。
今、夫から贈られた指輪を捨てろと言われれば、捨てられる。だけどレイモンドからもらった指輪は捨てられないだろう。クリスが失くしたというだけで、こんなに動揺してるのだから。

「こんな気持ち……今更だわ」

オードリーは両手で顔を覆った。ケネスはあきれたようにため息をついた。

「なあオードリー。博士が死んでもう四年だ。君がここに戻ってきたいと言っても、許されるんじゃないか」

「ケネス様。でも……」

「あちらには伯爵家から口添えしてやってもいい。どのみち、クリスだって女の子だ。跡継ぎにはなれないだろう?」

「それは……そうですが」

「それとも、衣食住の不自由のない今の生活に満足しているのかい? それならそれでこれ以上の口出しはしないが」

挑戦的に言われて、思わず立ち上がって反論する。

「そんなわけありませんわ。私だって、……帰れるものなら帰りたいです」

言ってから顔を染めたオードリーは再び椅子に腰を落とし、顔を覆う。

「レイモンドも、意地を張るのはやめたらどうだ。その年まで独身なのは忙しいからだけじゃないだろ。お前はモテないわけじゃないんだから」

「……ケネス様、なんでそんなこと知ってるんですか」
< 119 / 181 >

この作品をシェア

pagetop