家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
あのまま夫が生き続けていたら、いつかは愛することができただろうか。
そう考えれば考えるほど、オードリーは捨てられない指輪のことが気になった。
今、夫から贈られた指輪を捨てろと言われれば、捨てられる。だけどレイモンドからもらった指輪は捨てられないだろう。クリスが失くしたというだけで、こんなに動揺してるのだから。
「こんな気持ち……今更だわ」
オードリーは両手で顔を覆った。ケネスはあきれたようにため息をついた。
「なあオードリー。博士が死んでもう四年だ。君がここに戻ってきたいと言っても、許されるんじゃないか」
「ケネス様。でも……」
「あちらには伯爵家から口添えしてやってもいい。どのみち、クリスだって女の子だ。跡継ぎにはなれないだろう?」
「それは……そうですが」
「それとも、衣食住の不自由のない今の生活に満足しているのかい? それならそれでこれ以上の口出しはしないが」
挑戦的に言われて、思わず立ち上がって反論する。
「そんなわけありませんわ。私だって、……帰れるものなら帰りたいです」
言ってから顔を染めたオードリーは再び椅子に腰を落とし、顔を覆う。
「レイモンドも、意地を張るのはやめたらどうだ。その年まで独身なのは忙しいからだけじゃないだろ。お前はモテないわけじゃないんだから」
「……ケネス様、なんでそんなこと知ってるんですか」