家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「レイモンドさんっ。あの人、……あの人の家はどこですか?」
「落ち着けよ、ロザリー。誰だって?」
「前に、おかみさんのへそくりを探してほしいって言っていた人ですっ」
「へそくり……?」
レイモンドがいぶかし気に記憶をたどる。
まだロザリーが働き始めて最初の頃に、いろんな客が押し寄せたことがある。あまりにどうしようもない探し物だったのにロザリーが真面目に請け負おうとするので、『そんなものは探さなくていい』と追い出したのがレイモンドだ。
「ああ! 布商のニールか。あいつがどうした?」
「指輪は、もしかしたら盗まれたのかもしれないんです。クリスさんの背中に、彼の手の匂いが残っていて……。おそらくですがクリスさんは転ばされたのではないかと」
「転ばされた? でもなんでニールが。確かにあいつはいつでも金欠だが。奥さんに財布を握られてて、いつも遊ぶ金がないって言っている」
「何処に居らっしゃるかわかりませんか?」
「ここから中央広場に向かう途中に仕立て屋があるだろう。あそこだよ」
「あ、わかります!」
この街に来た最初の日に声をかけられた店だ。
あの時、声をかけてきたのは女性だったが、きっとあれが奥さんなのだろう。