家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「行ってきます!」

「待て、ロザリー、ひとりで行くな」

「あっ、クリスも行くっ」

ロザリーの後をザックが追い、さらに、置いて行かれてなるものかとクリスが追いかけた。

残されたケネスとレイモンドとオードリーは顔を見合わせた。
思いがけずクリスが元気そうに戻ってきたのでひとまず安心したレイモンドだったが、盗まれたと言われると穏やかじゃない。

「ええと……俺も追おうかな。すいませんが、その……」

ケネスに視線を送り、気まずそうに頭を下げる。
何せレイモンドまで行ってしまったら、営業中の宿の人間がすべて不在ということになってしまう。
察したケネスは、腕を組みつつ、恩を着せる気満々で頷いた。

「いいだろう。留守番役はこの伯爵子息ケネスがうけおってやろう。食堂に来た客は帰すか待たせておけばいいんだろう?」

「お願いします!ケネス様」

レイモンドはオードリーの手を取って走り出した。残されたケネスは、途中だった蜂蜜酒に口をつける。
悠然をモットーとする伯爵子息は、最近すっかり落ち着きを失ったザックを思い出しほくそ笑んだ。

「やれやれ、どいつもこいつも騒がしいったらないねぇ。あのザックも……これは、なにか動き出すかな」

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