家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


仕立て屋に向かって駆け出すロザリーはすぐ後ろを走るザックの声に我に返った。

「待て、ロザリー。クリスが追いかけてきてる」

「ええっ。あ、本当ですっ」

必死に走っているから声も出せないらしく、口をパクパクとさせながら両手両足を必死に動かすクリスが見える。
ロザリーは立ち止まり、後ろから走ってくるクリスのために両手を広げた。

「ま……って。おいて、……いかな、……で」

クリスは全身で息をしている。よたよたになりながら、ロザリーのスカートに向かってダイブした。

「ごめんなさい。追いかけてきてるなんて思わなくて」

「私が……失く……たの。だから、じぶんで……」

「そうですね。自分で見つけて、お母さんに見せたいんですよね」

ロザリーもその気持ちはよくわかる。
クリスの息が整うのを待ってから、今度は歩いて仕立て屋へ向かった。

「ランディなら今日はまだ帰ってきてないよ。最近、いい仕入れ先から断られて腐ってるからね。ちゃんと行商でいい布買ってきてくれれば、こっちだっていいドレスが作れるってのにさ」

彼の妻である仕立屋店主はあきれたように肩をすくめた。どこか行った場所に心当たりはないかと尋ねたが、芳しい返事はもらえなかった。
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