家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

仕方なく手あたり次第に探そうとしていたとき、広場でニールが内緒話でもするように、ランディの肩を抱いているのを見つけた。

「だからさ、この指輪を渡して口説けば一発だって」

「しかし……」

「傷心なんだろ? チェルシーは。今なら五万ガルで売ってやるよ」

「五万ガル? 高くないか?」

ガルはこの国の通貨単位である。大体、成人男子の給料が十万ガルといったところだ。
ちなみに記念硬貨として作られた金貨は、貨幣価値としては五百ガルだが、販売価格は千ガルだった。

「へぇ、お前のチェルシーへの気持ちはそんなに安いんだ? まあ俺はいいぜ。嫌なら質屋に持って行ったっていいんだ。でも今すぐ欲しいんだろ? だったら、これ以上のものはないと思うけどなぁ」

何やら不穏な空気である。
ランディは迷いつつも財布を取り出している。

「やっと追いついた!」

背中をたたかれ、驚いて振り向くと、そこにレイモンドとオードリーがいた。
クリスは母親が追いかけてきたことが嬉しかったのか、ザックの腕に抱かれているにも関わらず、手を伸ばし足をバタバタとさせた。

「ママ!」

「クリス。……ごめんなさいね、さっきは叱りつけたりして」

「ううん。クリスこそごめんなさい」

ザックの腕から逃れ、クリスは母親の腕にしがみつく。ザックとオードリーはそれほど顔見知りというわけでもないらしく、「すみません、うちの娘が」と軽く会釈をするにとどまった。
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