家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「クリス、あの指輪があるから、ママがパパのことを忘れられないんだと思ったの」
娘の真摯な訴えに、オードリーは瞳をゆがませた。
「……違うのよ。あれはパパの指輪じゃないの。……逆だわ」
泣きそうな声だ。その理由は、ロザリーにはわからない。問いただすにも今はそれどころではなかった。
話している間にもランディとニールの間に動きがあった。
支払いをしようと財布を出したランディだったが、手持ちが足りない。
じゃあ質商に行こうとニールが肩を組んでランディを連れ出そうとしたのだ。
「だが、すぐにチェルシーを追い駆けたい。後で必ず払うから」
「いいや。俺は今すぐ金が必要なんだよ。お前のその時計があれば、三万ギルくらいは借りられるだろ」
「だが。えっと」
「ほら、早く早く」
どちらも引かない。気弱なランディはむしろ押され気味だ。
ロザリーとザックが目配せしてふたりの間に割って入ろうとした。だが、それをレイモンドが止めた。
「ここは俺に任せておけ」
レイモンドの目からは怒りが感じられる。普段、忙しそうにしていて隙は無いものの、感情をあらわにすることのない彼の怒りは珍しく、ロザリーは何も言えなくなってしまった。
「レイモンドに任せようか」
ザックが不安げな彼女を支えるように肩をたたいたので、ロザリーは頷いて彼らの動向を見つめた。