家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「ランディ! ここにいたのか」
「あれ? レイ。どうしたんだ厨房は」
「お前こそ、無言で仕事を抜け出すんじゃないよ」
「あ、ごめん。つい……」
まずレイモンドはランディのほうへと声をかけた。ニールも一瞬ぎょっとしたようだったが、その怒りがランディに向かっているのだと思ったのか、軽い調子で続ける。
「まあそういうなよ、レイ。ランディだって今必死なんだからさ」
彼らは年代的に近い。おそらくは学生時代の既知なのだろう。ニールとレイモンドも気やすい態度だ。
「チェルシーを射止めるために必死なんだ。だから見逃してやってくれよ」
そのまま、ランディの肩を掴んで歩き出そうとする。不自然に左手をポケットに入れて指輪を隠したこともロザリーは気になった。
しかし、レイモンドもちゃんと気づいたようで、「待てって、ニール」と呼び止めると、すかさず左腕を掴み、彼の腕を引っ張り出す。
「これはどこで手に入れたんだ?」
ニールの手には、琥珀のついた指輪がある。彼はさっと青ざめたが、とっさに言い訳をし始めた。
「え? 何処でって。そりゃ……俺が昔カミさんに贈ったものだよ。デザインが若い子向けだしもういらないだろうってんで……」
「そりゃあおかしいなぁ」
レイモンドがニールの腕を強く掴む。ニールは驚いて振り払おうとしたが、毎日鉄鍋と格闘するレイモンドの腕力は意外にも強い。