家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「遅い! 役立たずども」

ザックが彼らを睨みつけると、一同は頭を下げて「すみませんっ」と平身低頭の構えをとる。

「謝るのも後でいい! こいつを縛るロープか何かないか。探してこい!」

「ははっ」

黒服の男は二手に分かれ、ふたりがニールを取り押さえ、もうひとりはロープを探しに店へと向かった。

突然現れた黒服の男たちに、ロザリーだけではなくレイモンドやオードリーもあっけにとられている。

「今、殿下って呼ばれてませんでした?」

ロザリーがポソリとつぶやくと、ザックはため息をつきながら、耳のいいロザリーにしか聞こえないくらいの小さな声で答える。

「全く。役立たずの上にうっかりものばかりだ。これで護衛だというんだから笑わせる」

そして、身を起こすと、ニールをひと蹴りした後、ロザリンドに近づき耳元に囁く。

「ここいらでお互い正体をばらしてもいいかもしれないね。ロザリンド=ルイス嬢」

教えていないはずの家名と本名を告げられ、ロザリーの頭は真っ白になった。

「なっ……、どうして」

「両親を亡くしたと言っただろう。最近の事故記録を当たればある程度絞れる。国は広くても調べ方さえ間違わなければ正解にたどり着くのは容易だ」

「ザック様……もしかして」

「君にもヒントはあげたはずだけどな。白檀は熱帯性の植物だ。この国では採れない。そもそも、黒髪自体が結構特徴的なはずなんだが」

言われて、いくつもの情報が頭を駆け巡る。
しかしそれがまとまる前に、黒服の男が戻ってきてロープでニールを括り付ける。

「でん……ザック様、この男はどうしましょうか」

「事情を聞こうか。レイモンド、切り株亭の食堂を借りてもいいか?」

「もちろん。ゆっくり話を聞かせてもらわないとなぁ? ニール」

「ひいっ」

レイモンドからも怒りのオーラを感じ取り、ニールからは締めあげられた時のような声が出た。
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