家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
『琥珀色の美しい目が映えるようにと、せっかく青紫のドレスを仕立てたのに』
(あれ、目の色を褒めてくれた人は、他にもいたような……)
そう思った途端、また景色が変わる。先ほど散歩に連れて行ってくれた少年が、『リルの瞳は綺麗だなぁ』と笑った。
二つの記憶が、どんどん混ざり合ってくる。それはやがて中心に向かって回転し始め、脳内の画像は引き延ばされ、ただのマーブル模様と化してくる。
頭がぐらぐらして、ロザリーはめまいに似た感覚に襲われた。回転が速くなるに従い、馬車に酔ったときのような吐き気を感じ始める。
(どうしましょう。気持ち悪い。誰か……)
「……誰か、助けてください!」
叫んだと同時に、ロザリーは長らく閉じたままだった瞼を開いた。
最初に見えたのは、茶色でダマスク柄が描かれた天井だ。ガラスで作られたシャンデリアが、部屋の中を照らしている。肩で息をしながらロザリーはあたりを見回した。
汗のせいで夜着が肌に張り付いている。服をぱたぱたと引っ張ることで、火照った肌に空気を送った。
(それにしても……ここはどこでしょう)
ロザリーは一見で判断することができなかった。
先ほどの夢のせいで、頭の中がごちゃごちゃになっている。見たこともないはずの景色が脳内にこびりついて離れない。ただ漂ってくる匂いに、眉をしかめた。