家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「ほら見ろ。純粋な人間はこうなんだよ。分かったか。お前は腐っている」
「……違いない」
クリスの素直な謝罪行動に、ニールは怒られるよりもショックを受けたらしくうつむいた。
これによってニールを責め立てる空気は薄れていった……かに思えたが、それを許さなかったのがザックだ。
「悪いが、俺は無罪放免する気はないぞ」
「なっ」
「子供に怪我をさせた傷害罪、それから指輪を盗んだ盗難罪。程度が低かろうとも立派な犯罪だ」
「そんなぁ。つか、あんた誰だよ。若造が、憲兵でもないのに偉そうに」
そう言うと、今までのんびりと座っていたケネスが立ち上がり、ニックの頭をひっぱたいた。
「不敬罪も追加されたいか? ザックは俺の従弟だぞ?」
「ケネス様……? え? 伯爵家のお方なんですかっ! こ、これは大変な失礼を」
ニールは蒼白になり、おでこを擦り付けるようにして土下座する。
しかしロザリーは知っている。先ほどの黒服の男たちが、ザックを「殿下」と呼んでいたことを。
殿下という呼び名は通常王族にしか使わない。
ケネスの従弟というだけでこうなのに、もし本当に王族だとしたら、それどころでは済まないだろう。
息をつめて見つめていたら、ザックが振り返りゆっくりと片目を閉じた。
“後で話そう”と声を出さずに口だけを動かす。
内緒話をしていると思えば、妙に気恥ずかしくなってしまう。ロザリーは真っ赤になりながらも頷いた。