家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
彼女が出ていったのを見届けたところで、ケネスがおもむろに椅子に腰かける。
そして、いつまでも彼女たちが出ていった扉を見つめ続けているレイモンドの背中に問いかけた。

「どうするんだ? プロポーズするのか?」

レイモンドはゆっくり振り向いた。ケネスの座る椅子の周りに立つザック、ランディ、ロザリーも彼がなんと返答するのか、息をのんで見つめた。

「……正直、考えてはいませんでした。俺にとってはずいぶん前に振られた相手だったし。……ただ」

ケネスは興味深げに彼の顔を観察する。ランディはもう悲鳴でも上げそうな顔だ。

「久々に、胸は疼きました。彼女を思ってひとりでいたつもりはなかったけど、他の人に目がいかなかったのはやっぱり吹っ切れていなかったかもしれない」

ケネスがひゅうと冷やかすような口笛を吹いた。チェルシーの気持ちを知っているロザリーは複雑だ。困り果ててついザックを見上げたら、彼もなんとも言えないような表情だった。

そこに、タイミング悪くチェルシーが戻ってくる。
その場にいたみんなが、しまったというような顔つきになり、チェルシー自身も気まずい雰囲気を察知したのか身を固くする。

けれども彼女は、逃げはしなかった。気丈にもまっすぐレイモンドのもとへ向かい頭を下げる。
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