家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
両親を失っても、ロザリーはひとりじゃない。
自分の力で人と関わり合い、ちゃんと生きてこれた。今側にいる人たちは、ロザリーの肩書も立場も知らない。ただ、ありのままのロザリーを認めて受け入れてくれた人たちだ。

そう思ったら、心がしゃんとなった。
ロザリーの様子が変わったことに、ザックも気づいたようだ。腕の力を緩め、彼女の顔を覗き込む。

「ロザリー?」

「大丈夫……です。思い出しました」

自分の力でも生きていける。上手な生き方かどうかは置いておいて、働いてお金を稼いでこれまで生活できた。
それを笑顔で支えてくれている人もいる。

「私、もう、ひとりじゃないです。ここに、居場所がありますもん」

そのつぶやきに、ザックは心底嬉しそうに笑う。
涙にぬれた瞳に映る彼の優し気な瞳に、ロザリーは見とれた。

ケネスはいつの間にか席を外していて、部屋の中にはふたりきりになっていた。
ロザリーが焦って辺りを見回すと、ザックもその事実に気づいたらしく、苦笑しながら人ひとり分くらいの距離を離して座り直した。

「ロザリー、提案があるんだが」

声を潜められて、ロザリーも前のめりになる。ザックの整った顔を見て、さっきまで抱きしめられていたことを思い出し無性に恥ずかしくなった。
ザックの態度が変わらないから、かしこまるタイミングを逃してしまったけれど、王子と知ってしまったからには、もっと敬意を払わなくてはいけないのに。
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