家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
途端にロザリーは青ざめる。「どうした?」と不審げにのぞき込んでくるので、ロザリーは慌てて離れた。
「なんでもないです。それより、提案とは……」
「うん。……ルイス男爵に会いに行かないか?」
それは、ロザリーは予想していなかったことだ。
先ほどまでの安心感がふっと消えていく。受け容れてくれていたこの街から追い出されるような気持ちだ。
「そ、それは、記憶が戻ったからですか? 私……ここにいちゃだめですか?」
感情が戻ったとたんに、涙腺が緩くなる。せっかく見つけた居場所から追い出される不安に、ロザリーは怯えた。
「え? 違うって。ちょ、誤解」
「嫌です。私ここにいたいです」
「落ち着けって」
「ここでもっと一緒にいたいです。レイモンドさんや、チェルシーさんやランディさんと……」
それになにより、ザックといたい。
その言葉が声になる前に、ザックが落ち着かせるようにロザリーを抱きしめる。
「ちゃんと聞けって。俺はロザリーをこのままアイビーヒルにいさせてほしいと言いに行きたいんだ!」
白檀の香りに包まれたまま、ロザリーは目をぱちくりとさせた。ザックの言葉が信じられない。