家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「どうして……」
体を離し、ザックを見つめると、彼は緑色の瞳でそれを受け止め、茶化すように笑った。
「さあ。俺が君といたいからかな?」
ロザリーの顔が真っ赤になる。彼女の百面相にくっくっと笑いをかみ殺す彼に、ロザリーはほほを膨らませた。
「もうっ、またからかってますねっ?」
「違うよ。本心だって」
「いつもいつも子ども扱いしてっ、私だって……」
でも、ロザリーがまだ社交界デビューもしていない小娘なのは本当だ。そう思ったら急に喉の奥が詰まったようになった。
「……どうした? ロザリー」
「いえ。……よく考えたら、私が怒ったりなじったりしてはいけない相手だったと思って」
尻尾を振って縋り付きたいくらい、ザックがそばにいると幸せな気持ちになれる。
ロザリーは恋をしたのだ。彼を好きになってしまった。だけど、彼が第二王子だというなら、この恋は実らない。身分違いもいいところだ。
「それは傷つくな」
「でも」
「俺が、身分違いを理由に手離すような相手のために、わざわざルイス邸まで出向きたいと言っていると思っているのか?」
「……でも」
「今言うのは弱っているところに付け込んでいるようで気が引けるけど、誤解されたくもない。ロザリー、いや、ロザリンド=ルイス殿」
「はいっ」