家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
ザックはかしこまり、ロザリーに対して膝をつく。最上の礼を尽くされて、ロザリーは驚きすぎて青くなった。
「ザック様、立ってください。そんな」
「俺は君に傍にいてほしい。ケネス以外の人間は信じられないと思ってきたが、君のことなら信じられる。どうか、俺と一緒にいて、君の力を貸してくれないか?」
真剣なまなざしで見つめられて、ロザリーの胸はドキドキする。
父母の記憶も取り戻し、ロザリーはこの街に来た本来の目的はもう果たした。
だけどもし、ザックの傍に居場所があるなら、彼の役に立てるのなら、いくらでも力を尽くそうと思える。
まあ、特技と言っても、鼻が利くことくらいしかないけれど。
「はい! 喜んで」
涙で潤んだ瞳でほほ笑んだら、ザックは再びロザリーを抱きしめた。再び頭を埋め尽くす白檀の香りに、ロザリーは幸せな気持ちになる。
「……それで、私は何をすればいいですか?」
「何って?」
「私の力が必要なんですよね? 残り香でザック様を狙う人を当てることができるでしょうか。自信はありませんけど、頑張りますからっ」
「おい、ロザリー、俺は……」
そんなことをさせるつもりで力を借りたいと言ったわけではない。
そう説明しようと思ったところで、扉の向こうから大笑いするケネスの声が聞こえてきた。