家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「ケネス! お前、聞き耳を立てていたな?」
ザックの怒鳴り声に、ケネスは笑いながら扉を開けて中に入ってくる。
「いや、未婚の女性と若い男をふたりきりにさせて何かあったら申し訳ないからね。一応、監視させてもらっていただけだが……。いやはや、第二王子も形無しだね。今日は面白いものを見せてもらった」
「え? あの」
「ああ、ロザリー嬢は気にすることはないよ。それより、今後君はここに住めばいいと思う。切り株亭にはおそらくオードリーが越してくるし、部屋が足りなくなるだろう。なあに、切り株亭までは毎朝送ってあげるよ」
「でも、そんなの申し訳ないです」
「いや? ザックが君を守りたいというならば、彼を預かるイートン伯爵家にも君を守る義務もある。当然のことだよ」
ケネスはぱちりと片目を閉じて笑った。
ロザリーは困ってザックを見上げる。
なぜか真っ赤になっている彼は、きょとんとしているロザリーに大きなため息をついた。
「まだ社交界にも出ていないんだったな。……分かった。長期戦でいこう。俺からも頼むよ、ロザリー。ここにいてくれ。俺の傍に」
「……はい!」
なぜため息をつかれたのかはわからなかったけれど、ザックが笑ってくれたから、ロザリーもホッとして嬉しくなった。
『傍にいてほしい』そう言ってもらえる自分になれたことが嬉しい。
最初にこの街に来たときとは、また違ったワクワクがロザリーの中で膨らんでいた。