家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「また明日来るわ。……ロザリーさんもまた明日ね」
「え、帰っちゃうんですか?」
「待てよ、オードリー。送っていく」
「平気よ。そんなに遠くないわ」
オードリーはザックにぺこりと会釈すると宿を出ていった。ロザリーはふたりの邪魔をしてしまったような気がして、気が気ではない。
「すみません。なんか。……大事なお話し中だったんじゃありませんか?」
「いや。……いいよ。問題ない。それよりロザリーももう休めよ。ザック様もお気をつけて」
さすがに深夜に近いとあって、レイモンドもザックを招く気はないらしい。
ザック自身もそのつもりのようで、「オードリー殿は俺が送って行くよ。お休み、ロザリー」といい、ロザリーの頭を撫でて出ていった。
リルの気分で、お尻のあたりがムズムズする。
(子供か犬みたいに思われてそうですけど……。嬉しいから何でもいいです)
ロザリーはその夜、父や母のことを思いだして少し泣いた。だけど、ザックの手の感触が悲しみに沈むたびにロザリーを引き上げてくれる。
記憶と感情が押し寄せた長い夜だったが、ロザリーから、生きる希望が失われることはなかったのである。