家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


翌日、オードリーとクリスは旅姿で切り株亭を訪れた。
クリスは別れの寂しさに目に涙をため、レイモンドとロザリーに交互に抱き着きに来る。

「ロザリーちゃん、お手紙かくね」

「クリスさんは文字が書けるんですか?」

「うん! ママに習っているの」

幼い言動からは想像がつかないが、秀才の子は秀才らしい。

「今度は割とすぐに会えるよ、クリス」

「どうしてぇ?」

「まだ内緒だ」

レイモンドはクリスをギュッと抱きしめ、お昼をごちそうしてふたりを送り出した。

昼過ぎにやって来たケネスとザックは、オードリーが帰りの馬車に乗るのを見送った。そしておもむろにケネスがレイモンドに問いかける。

「……結局、君たちの間はどうなったんだい」

誰もが気になっていつつも、レイモンドが言い出さないので聞けなかったことだ。
はっきり聞いてくれたケネスに、ロザリーだけでなく、ランディやチェルシーも心の中でエールを送る。

「どうもこうも。まずはオルコット家のご両親を説得するところから始めなきゃいけませんしね。長期戦ですよ」

「そうかい。僕はてっきり、すぐにでもあのふたりが越してくるのかと思っていたよ。ロザリー嬢を伯爵家で預かろうかと思っていたのだけどね」

ケネスがさらりとそういうと、レイモンドだけでなくランディやチェルシーまでもが「ダメですよ!」と寄ってきた。
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