家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「ロザリーは今やうちの宿の看板ですよ? 連れていかれたら困ります。他の誰が失せもの探しができるって言うんですか」
とレイモンド。
「そうですよ。厨房だって、ロザリーがいてくれれば人数が少なくても焦がして失敗することもないし」
「今更、ロザリーは渡しませんよ? ケネス様、私にこの宿の掃除ひとりで全部しろって言うんですか」
噛みつくような調子のランディとチェルシーも、普段はケネスとの話になど入ってこないというのに。ケネスは苦笑してつぶやいた。
「……君たち、以前と言っていることが違ってないかい?」
聞いていたロザリーは嬉しさで胸がうずく。尻尾があったらぶんぶん振っているところだ。
リルの記憶だけを頼りに来たこの街で、半ば無理やり雇ってもらって、役に立てるか不安しかなかったけれど。切り株亭の仲間たちもロザリーをちゃんと認めてくれていた。それが分かって、ロザリーはホッとする
タイミングよく、宿に泊まっていた客も「懐中時計が見当たらないんだけど探してもらえないか。どこかに置き忘れたかな」とやって来た。
顔を見合わせて頷き、ロザリーとチェルシーが対応するため二階へと上がる。
一階にいるレイモンドやザックのもとにも、「これだよ! ありがとう!」と喚起する客の声がすぐに響いてきた。
頬杖をついていたザックは、大きくため息をつき、「これは、数日の休みを取らせるのも当分は無理そうだ」とひとりごちた。