家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「旦那様。落ち着いてくださいませ」
エイブラムにとっては家督を任せるにふさわしいと早々に爵位を相続させた大事な息子の死だ。本来なら寝込みたいほどショックだ。息子たちが死んで二週間。ロザリーの意識が戻らないまま葬儀もエイブラムが仕切り済ませた。
彼は、息子たちの忘れ形見であるロザリンドを守らねばならないと、気を張ってこの数日を過ごしていたのだ。なのに、すっかり様子の変わったロザリーに、エイブラム自身混乱している。
「……ロザリーは十六歳になったんだったな。社交界デビューをさせるより、早々に婿を見つけたほうがいいかもしれん」
「ですが、旦那様」
「家族を失った痛みは家族をつくることで癒せるだろう。……私は、あの子が目覚めたらともに泣き、ダドリーの思い出を語り合えると思っていた。しかし、……まるで他人を見るようなあの顔を見ていたら、背筋がぞっとした。あの子と癒し合うなんて無理だ」
エイブラムは肩を落とし、大きなため息をつく。
妻を既に亡くしているエイブラムにとっては、ロザリーはたった一人の身内だ。期待をしていた分だけ、反動は大きい。
「……近隣の貴族にいい年ごろの独身男性がいないか、聞いてみてくれ」
そう執事に言い残し、エイブラムは疲れたように自身の寝室に戻ってしまった。