家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


 レイモンドには翌日きちんと説明する、と約束したうえで、ロザリーはその晩、イートン伯爵邸に泊った。
祖父と孫とはいえ、一緒に寝る風習はない。あくびが止まらなくなる時間まで、ロザリーとエイブラムは語り合い、それぞれの部屋に戻って眠りについた。
伯爵家のベッドはふかふかで、翌朝のロザリーはいつもよりも寝過ごしてしまう。
朝食を食べていたエイブラムに別れの挨拶を済ませ、宿の仕事に戻るために屋敷を出る。

「朝食くらいちゃんと食べないと倒れるぞ」

「でもでも、遅れちゃいますし」

「やれやれ。落ち着きのないお嬢さんだ」

頭上からの呆れたような声に恥ずかしくなるが、文句を言いつつ送ってくれるザックには感謝の念しかない。そして、こっそり彼を護衛しているであろう人たちにも、余計な仕事を増やしてごめんなさいと心の中で謝っておく。

切り株亭はいつもと変わらぬ朝を迎えていた。
一晩の休憩を終え、旅路に戻る人々がちらほらと宿から出ていく。食堂の朝食は基本泊り客のみに出されるので、この時間に中に入るのはロザリーくらいだ。

「すみませんっ、遅くなりましたっ」

「なんだ、ロザリー。ゆっくりしてきても良かったのに」

既に朝食の波が過ぎ去った厨房では、レイモンドがまかないを作っていた。
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