家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
*
目が覚めてから二ヵ月。ロザリーは自らの足で庭を散策できるほど回復していた。
時間が経って体が癒されても、ロザリーの心は元に戻らなかった。
父親と母親の顔は思い出せる。記憶は相変わらずあいまいで、リルとの記憶がごちゃごちゃになってはいるが、祖父が飾っている家族の肖像画からみても、自分が両親から大切にされていたことはちゃんと理解できる。
なのに、感情だけがどこかに行ってしまったように、悲しさも嬉しさも感じられない。
「お父様、お母様。私の心は、ふたりと一緒に死んでしまったのかもしれません」
心だけ死んだのだとしたら、生きていて何の価値があるだろう。
祖父の態度が変わってきたのも、ロザリーは肌で感じていた。
やたら縁談を勧められるのは早く追い出したいからだろう。しかし、まだ父母が死んで二ヵ月だし、勧められた相手は十も年上の軍人将校だ。とても話が合うとは思えないし、まだ十六の世間知らずの娘に、軍人の妻が務まるとも思えなかった。
「……いたっ」
頭が痛むと同時に、にぎやかな街が思い出される。夢の中で見るリルの街だ。行ったことなどないはずなのに、温度や質感まで思い出せそうなほど鮮やかによみがえる。
ロザリーとしての記憶はこんなにも無味乾燥としているのに、リルの夢の中では、感情も感覚もはっきりしている。
目が覚めてから二ヵ月。ロザリーは自らの足で庭を散策できるほど回復していた。
時間が経って体が癒されても、ロザリーの心は元に戻らなかった。
父親と母親の顔は思い出せる。記憶は相変わらずあいまいで、リルとの記憶がごちゃごちゃになってはいるが、祖父が飾っている家族の肖像画からみても、自分が両親から大切にされていたことはちゃんと理解できる。
なのに、感情だけがどこかに行ってしまったように、悲しさも嬉しさも感じられない。
「お父様、お母様。私の心は、ふたりと一緒に死んでしまったのかもしれません」
心だけ死んだのだとしたら、生きていて何の価値があるだろう。
祖父の態度が変わってきたのも、ロザリーは肌で感じていた。
やたら縁談を勧められるのは早く追い出したいからだろう。しかし、まだ父母が死んで二ヵ月だし、勧められた相手は十も年上の軍人将校だ。とても話が合うとは思えないし、まだ十六の世間知らずの娘に、軍人の妻が務まるとも思えなかった。
「……いたっ」
頭が痛むと同時に、にぎやかな街が思い出される。夢の中で見るリルの街だ。行ったことなどないはずなのに、温度や質感まで思い出せそうなほど鮮やかによみがえる。
ロザリーとしての記憶はこんなにも無味乾燥としているのに、リルの夢の中では、感情も感覚もはっきりしている。