家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「もちろんよ。おじい様は?」
「もうじきお休みになられます。……お休みのご挨拶になら行っても構わないかと」
「ありがとう! オルトン」
ロザリンドはすぐさま自分の部屋から飛び出し、祖父の寝室へと向かった。
ノックをして返事を待つのももどかしく扉を開ける。
「ロザリンド」
「おじい様、おやすみの挨拶に参りましたわ」
ベッドに横たわる祖父の表情は、苦悩に満ちていた。
「……やっぱり」
ためらいを口にしかけた声を、ロザリーは頬へのキスで黙らせる。
「心配してくれてありがとう、おじい様。でも私、大丈夫です」
「……ロザリー」
エイブラムが自分を心配してくれているのだと思った途端に、ロザリーのお尻のあたりがムズムズする。
(あ、私、今……嬉しいんだぁ)
尻尾を振っているような気分になり、祖父に対してその感情が沸き上がったことにほっとする。
「私、感情を取り戻したいんです。旅をすることで取り戻せる気がするんです」
うっすらとだが、ロザリーの目に涙が浮かんだ。
エイブラムはそれを真顔で見つめ、きゅ、と彼女を抱きしめた。
(うっ……加齢臭が)
鼻のいいロザリーにはきつい体臭。だけど、嬉しさが先にたち、ロザリーも彼を抱きしめ返した。