家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「お客さん?」
いぶかしそうに再度問いかける店主に、ロザリーは思い切っていった。
「私、ロザリーと申します。一生のお願いです。どうか私をここで使ってください!」
一瞬の間が開いた。
返答が怖くて頭を上げられないロザリーの耳に届くのは、戸惑い交じりの店主の声だ。
「え……っと、でも、君、いくつ? 保護者は? ひとりで来たの?」
完全に子供に対する態度を見せられ、ロザリーはハッとする。
貴族の女性としては、十六歳は決して子供ではない。社交界にデビューすることで大人の仲間入りをし、夫となる人を見極めていく、いわば転換期にあたる年齢だ。
庶民とて、働き手として特段幼い年齢ではない。……が、貴族の令嬢として育てられたロザリーは、ともすればもっと幼く見えるのだろう。
ましてロザリーは身長百五十五センチと小柄なほうだ。丸顔のせいか年齢より子供に見られるのはいつものことだった。
「私、十六です。もう大人ですもの。ひとりで旅をしているんです。その、仕事を探しているんです。こちらの宿屋で使ってもらうことはできますか?」
「働くって……」
店主の視線が、ロザリーの手にうつる。ロザリーはまじまじと見られないように手を重ねて隠した。
荒れていない手は、ロザリーが常から仕事に従事していないことを如実に表している。