家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「後継人を失ったということかな。しかし、君は働くのには向いてなさそうだが」

「まあっ、そんなことはありません。私、自分のお部屋の掃除は自分でやっていましたのよ」

胸を反らすと、ザックがポソリと反論した。

「自分の部屋だけの掃除と、金をもらう掃除を一緒に考えているなら痛い目を見るぞ」

それは、胸に突き刺さる言葉だった。最近感じることのなかった悲しい気持ちが襲ってくる。
耳のあたりがむずがゆい。しゅんとした気持ちが、そうさせるのかもしれない。

明らかにしょげ返ったロザリーに、ザックはぎょっとした顔をする。

「っ……悪かった。言い過ぎ……」

「はい、お待ちどう!」

間が悪く、お盆に料理と飲み物をのせたレイモンドが割って入ってきて、ザックの謝罪はロザリーには届かなかった。
それをしっかり観察していたケネスは、笑いをこらえながら料理を勧める。

「まあまあ、ロザリーくん、食べなよ。腹が減っているといい考えも浮かばないしね」

ケネスに言われ、ロザリーは申し訳ないような気持ちでちらりとザックを見たが、彼が無表情ながら頷いたので、ありがたく頂戴することにする。
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