家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「……いただきます」
目の前の料理からはすごくいい香りがする。その匂いだけで、口によだれがたまり、嬉しくてお尻がムズムズしてしまう。
ロザリーはひとさじすくって口に入れた。
濃厚なクリームと香ばしく炒められた玉ねぎの織り成すハーモニーが絶妙だ。ご飯を食べて胸が温かくなる、という感覚は初めて味わったかも知れない。
「おいしいです」
単純すぎる誉め言葉だが、他に言葉が思いつかない。
すぐに次のひと口をすくい、瞬く間にお皿を空にしてしまった。
ケネスもその勢いには圧倒されたらしく、「おお……さすがレイモンドの料理だな」とわけのわからない感心の仕方をしていた。
「はあっ、おいしかった。どうやってつくるんですか、こんなにおいしい料理」
リルの記憶がよみがえってから、料理にこんなにも感動したのは初めてだ。
自然に笑顔が出て、心がポカポカしている。
(やっぱり、この街にいれば感情が取り戻せる気がする)
「気持ちよく食ってくれたからこれはサービスしよう」
ケネスやザックが飲んでいるものと同じ蜂蜜酒をロザリーの目の前に置く。
「ありがとうございます」
(……これを飲んだら帰れと言うことでしょうか)
なんとかしてここにいたい。
けれど、ザックの言うように、ロザリーには働いた経験がない。軽々しく雇ってほしいなどと言ってみたが、断られるのも仕方ないような気がする。
だが、もう戻るところもないのだ。ここがだめなら、この街のどんな店でもいい。何とかして仕事を探さなくては。