家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「あの、失礼ですが、話の論点がずれていませんか?」
おずおずと口をはさんだのはロザリーだ。
失くしものと聞いて、妙に興味が湧いてしまった。なんといってもリルは探し物の名手だったのだから。
「チェルシーさんが盗んだとか盗まなかったの話じゃなくて、失くなったコインを見つけたいだけなのですよね。だったら、人を疑うよりも、失くした経緯をちゃんと洗い直すほうが大事だと思います」
ケンカ腰だった親子とチェルシーは毒気が抜かれたようにロザリーを見つめる。
「ボビー君。コインを最後に見たのはいつですか? 覚えている限りでいいので、教えてください」
しゃがんで、椅子に座る少年と目線を合わせたロザリーに、ボビーは戸惑いつつもぼそぼそと話し始めた。
ボビーは記念硬貨を買えたことが嬉しくて仕方なかった。
記念硬貨は王都でしか販売せず、早くから並ばないと入手することは不可能だ。
ボビーは父親にこれを買ってもらうために、一ヵ月も前から家業の手伝いをして頼み込んだ。
国の南端にある家から片道三日の旅程で、販売日の前日から王都入りし、ようやく買えた貴重なものなのだ。