家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
コインを手に入れた初日は、嬉しさのあまりずっと握り締めていた。拳の中に丸く固いコインの存在を感じるだけで、ワクワクした気持ちになったし、手を広げて金色の輝きが見えると嬉しくて自慢したくて仕方なくなった。
この宿に入ってからもほぼ手放すことはなく、風呂にも袋ごと持ち込んだ。服を脱ぐときに袋ごと落として、一度宝物を散らばしてしまったが、袋に戻したことはちゃんと記憶している。
いつもなら握り締めて眠るのだけど、落とした拍子に袋が少し濡れてしまったので、眠っている間に干そうと、窓際に置いておいた。もちろん窓の鍵は閉めたままだ。
朝起きて、いつものように宝物袋を広げてみると、金色に光るコインが無くなっている。
少年は慌てて部屋の中を探したが、ベッドの下にも、戸棚の隙間にも、記念硬貨は見つからなかったという。
「僕、気が付いたら寝ちゃってたから、お姉ちゃんが枕を変えてくれたあとには記念硬貨があるか確認しなかったんだ。でも他の人は僕たちの部屋に入らないんだから、お姉ちゃんが盗んだとしか思えないんだよ」
「ちょっと待ってください。だからそう極端に決めつけなくても。……すみません、ちょっと失礼しますね」
くんくん、とロザリーは少年の服の匂いを嗅ぐ。先ほどから気になっていたのだが、彼からは甘い花の香りがするのだ。