家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「し、失礼しますね」

気を取り直してボビーの肩から腰のあたりの香りを嗅ぐ。ポプリの匂いが一番強くついているのは常に袋を下げている腰ベルトのあたりだ。宝物である硬貨の金属臭は主に手から。汗の香り、本人の体臭。いろいろなものを嗅ぎ取って記憶していく。

「では次に、お父様のゲイリーさん。そしてお掃除をしたチェルシーさん。他にお部屋に入った方はいませんよね?」

頷いたのを確認して、ゲイリー、チェルシーと香りを嗅いでいく。
ゲイリーからは、ボビーと近い匂いがした。もちろん、ポプリの香りもする。中年の男性だからが体臭が強く、ロザリーは顔をしかめないように気を付けるので精いっぱいだ。

続いてチェルシーの香りも嗅いだ。彼女からは消毒薬の香りが強い。朝から、空いた部屋の掃除にいそしんでいるのだろう。
そのほかに、彼女の服からはミルクっぽい優しい香りがする。これはきっと本人の持つ香りだ。ラベンダーの香りはほどんどしない。

「次は、コインが無くなった現場であるお部屋を見せていただけますか?」

ロザリーは匂いをたどるように鼻を動かしながらボビーの後について階段を上る。そのあとをついていくのはザックだ。

ボビーはまだロザリーにうさん臭さを感じているのか、何度も振り返っては彼女にいぶかし気な視線を向ける。

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