家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「香りだけで何か分かったのか?」

一歩後ろをついてくるザックが問いかけるので、ロザリーはとりあえず今の所見を告げる。

「まだ何とも……。ただやっぱり、チェルシーさんは違う気がします」

「ほう」

階段を上りきったところで、騒がしい声が聞こえてきた。

「お客さん、俺たちは宿のお客のために一生懸命やってるんだ。それを疑われるんじゃ、やってられないよ」

男性の声だ。ロザリーは不思議に思って一気に階段の残りを駆け上がる。
ゲイリー親子に向かって、必死に訴えているのは大柄な男性だ。レイモンドと同じエプロンを付けているから彼もこの宿の従業員なのだろう。四角い輪郭で、たれ目が特徴的だ。年齢はレイモンドと同じくらいだろう。

「ああ、あいつはランディ。昔からいるここの従業員だよ」

疑問に答えるように、後ろから追いかけてきたザックが教えてくれる。

「そうなんですね」

「チェルシーが一生懸命やっているのは、あいつが一番近くで見ているから、疑われたのが悔しいんだろう。だが今の状況でゲイリー殿を怒らせるのは得策じゃないな」

はあ、とため息をついてロザリーを追い抜かした彼は、厳しい顔でランディを叱咤する。

「お客に向かってその態度はないな、ランディ。下がっていろ」

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