家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
解決の一部始終を見ていたレイモンドはご機嫌だ。
早速帰路に着くというゲイリー親子を見送り、ロザリーを食堂のテーブルに座らせる。
「本当に助かった。ありがとう。今日は泊っていってくれ。宿代はいらない。チェルシーへの疑いを晴らしてくれたんだからな」
感謝の言葉とともに用意してくれたのは蜂蜜酒だ。
「ありがとうございます」
「いいや。あんたはずっとチェルシーを信じてくれていたとザック様に聞いた。それが何よりうれしい」
レイモンドの満面の笑みは、ロザリーの……というよりはリルの記憶に引っかかるものがあった。
「あ……」
記憶が、ポロリと飛び出してきた。
昔この宿でよく出会った少年だ。たしかこの宿で働いていた人の息子で、お母さんの仕事終わりの時間によく迎えに来ていた。仕事が忙しいご主人様は、リルの散歩をこの子によく頼んでいたっけ。
(リルは……何年前に死んだのでしょう。私の前世だというなら、十六年よりは前ですよね……?)
とすれば、当時のレイモンドは十歳前後の少年だろう。計算としては合う気がする。