家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「なんて言ったらいいか……分かりません。話しても信じてもらえるとは」
「たった数時間とはいえ、先ほどの失せもの探しの間に、俺は君が信用に足る人間だと判断した。だから、どんな荒唐無稽な話でも信じる。あとは君が、俺を信じるかだ」
落ち着いた声ではっきり言われて、ロザリーはドキリとした。
ザックの澄んだ緑色の瞳を見つめていると、安心する。信用できる……ような気がする。だけど、本当に話してもいいのか判断がつかない。
「ほ……ほかの人には秘密にしてもらえますか?」
「ケネスとレイモンドを除くなら。レイモンドはここの宿主だ。君の正体を隠したままなら雇えとはいえない。ケネスは領主子息で俺は彼の家に今厄介になっている。隠し事はできない」
簡単にイエスと言われるよりも、その返答には説得力があった。
それでもまだ迷いのあったロザリーは、勢いをつけるために蜂蜜酒を一気に飲んだ。
「あっ、馬鹿っ」
蜂蜜酒は、そこまで強い酒ではない。大人は水代わりに飲むくらいの弱い酒だ。しかし、普段アルコールを口にしないロザリーにはそれなりに効果があった。