家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
5.街にやって来た女性

 その女性がやって来たのは、よく晴れた日のことだった。
ロザリーは足りなくなった食材を買い足すよう言いつけられ、市場で買った野菜を入れたかごを両手に持って宿に戻ったところだ。

宿屋の前に背の高い三十代前後の女性と、五、六歳くらいの小さな女の子がいる。
宿屋の入り口を、思いつめた様子でじっと見つめてたたずんでいる女性の姿は異様だ。娘と思しき女の子も「ママ? 入らないの?」と何度も服の袖を引っ張っている。

「あの……お客様ですか?」

「え?」

振り向かれて、ロザリーはその女性に懐かしさを感じた。
見上げてくる娘も、彼女の子供時代を彷彿とさせるような顔をしている。
ロザリーの記憶にある十代半ばの彼女と一致させるのはそう難しくなかった。

(この方知ってます! 昔、レイモンドさんとよく一緒にいた女性。お姉さん……でしょうか?)

ロザリーがまだリルだったころ、忙しいご主人に変わって、なぜかレイモンドが散歩に連れて行ってくれることが多かった。そのときに、レイモンドが親し気に話していたのを何度か見たことがある。

「あの、宿に用事でしたらどうぞ?」

「あなた……新しい従業員さん? 初めて見る顔だわ」

その言いぶりからすると、彼女はよくこの宿を訪れるようだ。しかしロザリーはこれまで、街の中で彼女を見たことはなかったのだが。

「あの……」

ロザリーが答えようとするのを遮るかのように、宿の扉が話し声とともに内側から開いた。
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