家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「遅すぎじゃないか。俺が見てこよう」
「ザック、過保護が過ぎるよ。ロザリー嬢は子供じゃないよ」
声の主はザックとケネスだ。自分のことを探されていると知って、ロザリーは焦った。慌てて中に入ろうとした瞬間にザックが扉を開いたため、押そうとした手が空振りし、バランスを失ってよろけてしまう。
「おっと、失礼。……なんだ、ロザリー。帰っていたのか」
ロザリーは籠ごとザックに受け止められた。後ろから追いかけてきたらしきケネスは、ロザリーの近くに立っている女性を見て驚きつつも笑顔を見せる。
「おや、オルコット夫人じゃないか。久しぶりだね」
対する女性もかしこまり、スカートの先をつまんで深々と礼を取る。
「これはケネス様。ご無沙汰しております」
「里帰りかい? 今回は何日滞在するんだ? レイモンドも今なら手が空いていそうだよ」
そうして、中へと招き入れる。どうやら、ケネスも彼女を知っているような様子だ。
興味深く見つめているうちに、ひょいと目の前から野菜の入った籠を取り上げられる。ザックが持ってくれたのだ。
「大荷物だな」
「ザック様、いけません。返してください」
「運ぶだけだよ」
「ザック様に運ばせるとか、あり得ません」
ザックはおそらく上級貴族だ。同じ貴族同士ならばともかく、現在庶民の扱いになっているロザリーには気遣われる理由がない。