家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「やだ。おすわり、つまらないもん」

「仕方ないわね。宿から出てはダメよ?」

オードリーはそう言うと、すぐにレイモンドとの話に戻ってしまう。相当積もる話があるようで、話は途切れることがなく、レイモンドが相槌を打ちながら、間違わずに料理をし続けられるのが、ロザリーには不思議で仕方ない。

ふらふらと、窓際によって外を眺めているクリスが気になったが、「ロザリー、ベットメイキングを手伝ってちょうだい」とチェルシーに呼ばれ、後ろ髪を引かれながらも二階へと向かった。

昨晩使われた個室は三部屋。大部屋のベッドは五つ。これを手早くシーツ交換しなければならない。
まずは二人で大部屋から始める。大部屋は連泊の人もいるので、できるだけ手早く仕事を済ませなければならない。古いシーツを外し、床を軽く掃除し、新しいシーツを付けていく。
男性用の大部屋を済ませた後は、女性の大部屋。それが終わり、個室に入ると自然とため息が出る。

「ふう。残りは少しゆっくりでもいいわね」

「はい」

チェルシーがシーツを敷くと、いつもぴしりと決まってあまりしわができない。
だが気のゆるみのせいか、今回はすごく時間がかかっていた。
掃除をしていたロザリーが不思議に思って彼女を見ると、はあ、と深いため息が聞こえてきた。

「オードリーさんが来てたわね」

「チェルシーさんもご存知なんですか? レイモンドさんの幼馴染だとか」

「そうね。……彼の初恋の人よ」

目を伏せたチェルシーに、ロザリーはなんと返していいかわからない。レイモンドが好きな彼女にとっては複雑なのだろう。
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