家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「結婚されている……んですよね?」
「正確にはしていた、よ。旦那さんは亡くなられたの。今のあの人は未亡人。昔からレイモンドと仲良かったからね、狙ってるんじゃないかって思っちゃう。だってさ、里帰りだからってわざわざ宿にまで顔をだす? 自分の家でもないのに」
「未亡人……」
かとも思ったが、ふたりの年齢は三十代前後だ。ましてオードリーには子供までいるのだ。初恋がいつまでも持続しているわけはない。
「レイモンドさんが今もオードリーさんを好きとは限りませんよね?」
「……見てればわかるわ。結構わかりやすいの、レイモンド」
チェルシーはため息をつきつつも、手をせわしなく動かしている。
どうやら、ランディとの三角関係どころではなく、オードリーまでも含めた四角関係のようだ。大分複雑な人間関係の中、よく割り切って仕事ができるものだとチェルシーに尊敬すら覚えてしまう。
「さあ、これで終わりね。……戻りましょうか」
「はい」
慰めたり励ましたりするには、ロザリー自身に恋愛の経験値がなさ過ぎた。
結局、話はうやむやになり、客室清掃を終える。
「あら、何かしらこれ」
階段を降りたところで、突然チェルシーがしゃがんだので、シーツを抱えて前がよく見えていないロザリーは、ぶつかりそうになる。