家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「どうしたんですか? えっとクリスさんですよね?」

「こ、転んだの」

「大丈夫ですか? 宿から出てきちゃったんですか? ひとりで?」

ロザリーは駆け寄り、クリスを抱き起す。彼女は膝をすりむいていて、血が出ていた。

「痛かったですね。早く切り株亭に戻って治療しましょう」

「うん」

クリスは何の戸惑いもなくロザリーにギュッとしがみつく。なんだか妙に懐かれて不思議な気分だ。

「俺が抱こう」

ザックが手を伸ばしたが、クリスはぶんぶんと首を振った。

「……お姉ちゃんがいい。お姉ちゃんと遊びたくて追っかけてきたの」

「私ですか?」

「だって大人のお話つまらないんだもん」

どうやら、クリスにはあの中にいる人間の中でロザリーだけが子供に思えたらしい。

「私も大人で……」と言いかけたロザリーの声はザックの笑い声にかき消された。

「……なんですかザック様」

「悪い悪い。そうだよな。大人ばっかりの中にいたらつまらないよな。でもこのお姉ちゃんは残念ながら力持ちじゃないんだ。抱っこするのは俺でもいいか?」

「……お姉ちゃんと手を繋いでいていいなら」

「だそうだぞ、ロザリー」

ザックがクリスを抱き上げたが、クリスはロザリーの服から手を離さない。
結局、二人並んで歩くことになり、いつもより近い距離にロザリーはドキドキする。
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