家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「懐かれたな」
「特に何をしたわけでもないんですけどねぇ」
困惑するロザリーに、クリスはにっこり笑う。
「お姉ちゃんはふわふわしていてかわいいから好き」
まるでリルに向けられたような言葉だ。小さな子供は、本能で見えざるものを感知するのかもしれない。
「ありがとうございます。お姉ちゃんはロザリーっていう名前なんです。名前で呼んでくれますか?」
「ロザリーちゃん?」
「……そうですね。クリスさん」
「……ぷっ」
こらえきれなくなったようにザックが笑う。思わずロザリーはザックを睨んだ。
「ザック様、笑わないでくださいよ」
「無理言うなよ、今の流れで笑わないのとか無理だ」
「……ザック様も、貴族にしては気さくですよねぇ」
ぽつりと、思ったことを言う。
ロザリーを助けてくれることもそうだが、クリスに対しても抱き上げることをためらわない。
貴族は通常敬意を寄せられることが多く、自ら動くということはあまりないものだ。ケネスなんかはそのあたりわかりやすく貴族のご子息という感じなのだが。
「別に俺は誰に対しても気さくなわけじゃない。裏がないなと思ったやつにしか優しくなどしないさ」
それを聞いて、ロザリーははたとクリスを見つめる。
クリスが裏がないのは子供だからいいだろう。しかし自分は? それではまるきり子ども扱いされているということではないか。
「私だっていろいろ考えてますようっ」
「いじけるなよ。これでも俺は褒めてるんだぜ?」
ふくれて見せても、ザックは全然余裕だ。弁明するでもなく笑い飛ばされて、ますますロザリーの頭に血が上る。
「そんなことないですっ。何にも知らない子供って言われてるのと一緒ですー!!」
なんでこんなに悔しくなるのか、不思議に思いながらロザリーは少しばかり泣きたい気分になっていた。