家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


それ以来、クリスはしょっちゅうロザリーに会いに切り株亭にやって来た。彼女たちがアイビーヒルに里帰りしてまだ三日目だが、その間でクリスを見ない日はない。
エプロンドレスを着こんだ少女は、鼻息も荒くロザリーの前で仁王立ちする。

「ロザリーちゃん、遊ぼう!」

「あー、ごめんなさい、クリスさん。まだお仕事があるんです」

「じゃあ、クリスも手伝う!」

キラキラした瞳で言われて、困ってレイモンドを見つめると、オードリーの娘とあってか彼もむげにする気はないらしい。

「適当に相手してやってくれるか、ロザリー」

「は、はあ。でも」

「いいわよ。もともと、私一人でもできるもの」

チェルシーがつれなく言って先に行ってしまう。どうも、オードリーが現れてからというもの、地味に不機嫌である。

「で、では、外の掃除をしてきますね」

クリスとするのに一番困らない仕事はこれだ。
彼女は彼女でしゃがみこんで花壇の花や葉をいじって遊んでくれるから。

掃き掃除をしていると、通りすがりの人が声をかけていく。
ふと、食べ物の匂いがして顔をあげた。

「やあ、ロザリー。精が出るね」

「こんにちは。今日はいいお天気ですね!」

近所のおじいちゃんだ。
顔を合わせれば挨拶するくらいの親しさにはなっている。
あまり近づくと加齢臭に顔が引きつってしまうので、一定の距離は保つようにしているが。
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