家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「小さなお嬢ちゃんもいるんだな。これをあげよう」

お芋を焼いたものだ。露店で売っていて、ちょっとしたお菓子として人気がある。
ひとつずつもらったロザリーとクリスは顔を見合わせ、「ちょっとだけ休憩しましょう」と花壇の端に座った。
ふーふーと大きく息を吹きかけ、はむ!とかみつくクリス。
可愛らしい姿にロザリーもほっこりしてしまう。

「クリスさんはお花が好きなんですか?」

「うん。パパの本棚にはいっぱい図鑑があるの。それ見てるの好き」

「パパ……ですか?」

チェルシーの話では、オードリーはすでに未亡人ということだ。クリスは現在五歳だと聞いている。父親の記憶は残っているんだろうか。

「クリス、パパのことよく知らない。クリスが生まれてすぐに死んじゃったんだって」

クリスはちょんちょんと葉をつつく。ロザリーは食べる手を止めて彼女に見入った。

「……悲しいですか?」

「よくわかんない」

それは、今のロザリーの感覚にも近い。
父母が死んだことはわかる。だけど悲しいかと言われればよくわからない。

「ママは言うの。悲しんでいるより、そのほうがいいって。でもママは寂しそうなの」

「……」

「ママ、ずっとここにいればいいのに。レイといるとき、楽しそう。クリスも、ママが悲しんでいるより笑っているほうがいいよ」
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