家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
それは子供の発想で、だからこそ胸が苦しくなる。
好きな人のこと、忘れたくなんてない。だけど悲しいと思っているだけでは先に進めない。
(私に、悲しい感情が残っていたなら、今頃どうしていたでしょう)
一気に両親を失ったのだ。すぐに立ち直ることなどできず、今も落ち込んでいたのではないだろうか。
のほほんと新しい一歩を踏み出せたのは、もしかしたら感情を失っていた恩恵なのかもしれない。
(……おじい様)
だとしたら、祖父はきっと辛かっただろう。
息子夫婦を失ったのだ。想像すれば計り知れない喪失だ。そのうえ、孫娘までも旅に出たいと訴えたわけだから。
(あ、ダメです。想像したら胸が……)
胸が痛い。ふわりと先ほど嗅いだ加齢臭が蘇り、祖父の姿がまざまざとロザリーの中に描かれる。
今改めて祖父のことを思うと、泣きたいくらい切なかった。
あの屋敷でひとり、祖父は何を思っているだろう。
「……ロザリーちゃん、どうしたの?」
「え?」
「泣いてる」
「あれ、どうしてでしょう」
ぽろぽろと、涙が零れ落ちる。決してものすごく悲しいというわけではないのに。
祖父の気持ちがようやく推し量れるくらいには、感情が復活したということなのだろうか。