家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

それは子供の発想で、だからこそ胸が苦しくなる。
好きな人のこと、忘れたくなんてない。だけど悲しいと思っているだけでは先に進めない。

(私に、悲しい感情が残っていたなら、今頃どうしていたでしょう)

一気に両親を失ったのだ。すぐに立ち直ることなどできず、今も落ち込んでいたのではないだろうか。
のほほんと新しい一歩を踏み出せたのは、もしかしたら感情を失っていた恩恵なのかもしれない。

(……おじい様)

だとしたら、祖父はきっと辛かっただろう。
息子夫婦を失ったのだ。想像すれば計り知れない喪失だ。そのうえ、孫娘までも旅に出たいと訴えたわけだから。

(あ、ダメです。想像したら胸が……)

胸が痛い。ふわりと先ほど嗅いだ加齢臭が蘇り、祖父の姿がまざまざとロザリーの中に描かれる。
今改めて祖父のことを思うと、泣きたいくらい切なかった。
あの屋敷でひとり、祖父は何を思っているだろう。

「……ロザリーちゃん、どうしたの?」

「え?」

「泣いてる」

「あれ、どうしてでしょう」

ぽろぽろと、涙が零れ落ちる。決してものすごく悲しいというわけではないのに。
祖父の気持ちがようやく推し量れるくらいには、感情が復活したということなのだろうか。
< 94 / 181 >

この作品をシェア

pagetop